仮想デスクトップの形態
オンプレミス型仮想デスクトップ と クラウド型仮想デスクトップ

働き方の多様化やDXの進展に伴い、仮想デスクトップ(VDI/DaaS)の需要はかつてないほど高まっています。
しかし、自社の要件に対して「オンプレミスで構築すべきか」「クラウドへ移行すべきか」の判断は、コストやセキュリティ、運用負荷の観点から非常に複雑な課題です。
本記事では、仮想デスクトップの主要な導入形態を網羅的にピックアップし、それぞれの構造的な違いやメリット・デメリットを徹底比較しました。
「VDI」の堅牢性と「DaaS」の柔軟性、どちらが現在のビジネススピードに適しているのか。
導入前に押さえておくべき選定基準を、専門的な視点から整理してお伝えします。
今日のビジネス環境において、場所やデバイスを問わずに業務を継続できる環境整備は、単なる「利便性向上」を超え、企業の「事業継続性(BCP)」を左右する重要な戦略課題となっています。
その中核を担う技術が、デスクトップ環境をサーバー上で実行し、画面情報のみを転送する「仮想デスクトップ」です。
本章では、なぜ今仮想デスクトップが不可欠なのか、そして混同されやすい「VDI」と「DaaS」の定義について整理します。
なぜ今、仮想デスクトップが注目されているのか?
仮想デスクトップが改めて注目を集めている背景には、大きく分けて3つの要因があります。
- セキュリティの極大化
データはすべてサーバー側のデータセンターやクラウド上に集約され、エンドポイント(PC端末)には一切保存されません。
これにより、端末の紛失や盗難による情報漏えいリスクを物理的に遮断することが可能です。 - ハイブリッドワークへの適応
オフィス、自宅、あるいは外出先であっても、ネットワークさえあれば同一のデスクトップ環境へ安全にアクセスできます。
一貫した作業環境の提供は、生産性の維持に直結します。 - IT資産管理の効率化
各PCのOSアップデートやパッチ適用、アプリケーションの配布を一括管理できるため、管理者の運用負荷を大幅に軽減し、ガバナンスの効いたIT環境を構築できます。
「VDI」と「DaaS」の決定的な違い
仮想デスクトップを検討する際、まず理解すべきなのが「VDI(Virtual Desktop Infrastructure)」と「DaaS(Desktop as a Service)」の分類です。
両者の根本的な違いは、「誰がどこに基盤を構築し、どこまでを管理・所有するか」という点に集約されます。
- VDI(仮想デスクトップ・インフラ)
自社が所有するデータセンターやサーバー上に、仮想化基盤を構築する形態です。ハードウェアからネットワーク、ソフトウェアまでを自社で完全にコントロールできるため、高度なカスタマイズが可能ですが、相応の初期投資と保守スキルが求められます。 - DaaS(デスクトップ・アズ・ア・サービス)
パブリッククラウド(Azure、AWSなど)上で提供されるデスクトップ環境を、サービスとして利用する形態です。
基盤部分の管理はクラウドベンダーが行うため、スモールスタートが可能であり、リソースの増減にも柔軟に対応できるのが特徴です。
これら二つは、どちらかが優れているというものではなく、組織のセキュリティポリシー、予算構造(資産計上か費用計上か)、および運用リソースの有無によって最適な選択肢が分かれます。
オンプレミス型仮想デスクトップの種類と特徴
オンプレミス型仮想デスクトップは、自社専用のサーバーリソースを確保し、高度なセキュリティ要件や独自のシステム構成に合わせて自由にカスタマイズできる点が最大のメリットです。
しかし、一口に「オンプレミス」と言っても、デスクトップを生成する仕組みによっていくつかの「方式」に分かれます。
要件(パフォーマンス、コスト、管理性)に合わせ、以下の3つの主要方式から最適なものを選択する必要があります。
VDI方式(仮想PC方式)
VDI方式は、サーバー上の仮想化プラットフォーム上に、ユーザー数分の「仮想マシン(VM)」を構築し、それぞれにクライアントOS(Windows 11など)をインストールする方式です。
- 特徴
ユーザーごとに独立したデスクトップ環境が割り当てられるため、アプリケーションのインストールや設定変更の自由度が高いのが特徴です。 - メリット
他のユーザーの使用状況にパフォーマンスが左右されにくく、物理PCに近い操作感を提供できます。 - 適したケース
開発者やパワーユーザーなど、個別のカスタマイズ環境を必要とする業務に適しています。
SBC方式(サーバー共有方式)
SBC(Server Based Computing)方式は、サーバーOS(Windows Serverなど)を複数のユーザーで共有し、マルチセッションで利用する方式です。
- 特徴
1つのOSリソースを全員で分かち合うため、サーバー1台あたりの収容効率が極めて高く、ライセンスコストやハードウェアコストを大幅に抑制できます。 - メリット
管理者が一括してアプリケーションの更新や管理を行えるため、運用負荷が低いのが利点です。 - 適したケース
一般事務やコールセンターなど、共通のアプリケーション(OfficeソフトやWebブラウザなど)を定型的に利用する業務に最適です。
HDI方式(ホスト型デスクトップ方式)
HDI(Hosted Desktop Infrastructure)方式は、仮想化を行わず、サーバー1台(またはカートリッジ型の物理ブレード)をユーザー1人が独占して利用する方式です。
- 特徴
物理的なCPUやメモリ、GPUリソースを1人で占有するため、仮想化によるオーバーヘッドが一切発生しません。 - メリット
CAD、動画編集、解析ソフトといった、極めて高いグラフィック性能や処理能力を必要とする業務においても、遅延のない安定した動作を保証します。 - 適したケース
設計部門、クリエイティブ職、金融機関のトレーディングルームなど、パフォーマンスが業務直結する現場に導入されます。
クラウド型仮想デスクトップ(DaaS)の種類と分類
DaaSは、デスクトップ環境をクラウドサービスとして利用する形態です。
自社で物理サーバーを保有する必要がなく、迅速な導入と柔軟な拡張性が最大の強みです。
DaaSは、その基盤の提供形態や運用管理の範囲によって、大きく以下の3つのモデルに分類されます。
パブリッククラウド型
Microsoft Azure(Azure Virtual Desktop:AVD)やAWS(Amazon WorkSpaces)といった、大手クラウドベンダーのプラットフォーム上で展開される形態です。
- 特徴
インフラ基盤はクラウドベンダーによって完全に抽象化されており、ユーザーは必要な時に必要な分だけデスクトップ環境をデプロイできます。 - メリット
スモールスタートが容易で、数千人規模への急激なユーザー増にも即座に対応できる「弾力性」があります。
また、最新のハードウェアスペックを常に選択できるのも利点です。 - 適したケース
導入スピードを重視する場合や、季節変動などでユーザー数が頻繁に増減する組織に最適です。
プライベートクラウド型
特定の企業専用に割り当てられたクラウド環境、あるいはホスティングサービス上でデスクトップを構築する形態です。
- 特徴
基盤自体を他のユーザーと共有しない「シングルテナント」形式が多く、他のユーザーの負荷による影響(ノイジーネイバー問題)を回避できます。 - メリット
パブリッククラウドの柔軟性を持ちつつ、オンプレミスに近い「専有性」と「強固なセキュリティ」を確保できます。 - 適したケース
業界独自の規制やコンプライアンスにより、データの物理的な分離が求められる企業に適しています。
マネージドDaaS
仮想デスクトップのプラットフォーム提供だけでなく、OSのパッチ適用、障害監視、ユーザーサポートなどの運用業務までを事業者が一括して請け負う形態です。
- 特徴
企業のIT担当者は、仮想化基盤の管理やトラブル対応から解放され、より戦略的な業務にリソースを集中させることができます。 - メリット
社内に仮想デスクトップに精通したエンジニアが不在でも、常に安定したサービス品質を維持でき、運用のブラックボックス化を防げます。 - 適したケース
運用リソースが限られている企業や、管理コストを固定化し、運用の標準化を図りたい組織に最適です。
【比較表】VID vs DaaS のメリット・デメリット
VDI と DaaS のどちらを採用すべきかは、単なる機能比較ではなく、自社の予算構造、セキュリティポリシー、そしてIT部門の運用リソースを総合的に判断する必要があります。
主要な比較項目を以下の表にまとめました。
| 比較項目 | VDI | DaaS |
| 初期コスト | 高額(サーバー・ストレージ等の購入が必要) | 安価(初期設定費用のみ、従量課金) |
| ランニングコスト | 定額(保守費用+電気代) | 変動(ユーザー数・使用時間に応じた課金) |
| 導入期間 | 数ヶ月(機器選定・発注・構築が必要) | 数日〜数週間(管理画面からの設定のみ) |
| カスタマイズ性 | 非常に高い(独自要件を自由に反映可能) | 制限あり(サービス仕様の範囲内に依存) |
| スケーラビリティ | 低い(機器増設に時間を要する) | 非常に高い(即時のリソース増減が可能) |
| セキュリティ | 自社完結(閉域網での運用が可能) | 事業者依存(最新のクラウドセキュリティ) |
| 運用負荷 | 高い(ハード障害対応、物理管理が必要) | 低い(基盤管理は事業者が担当) |
初期コストとランニングコストの考え方
- VDI
5年程度のスパンで見ると、1ユーザーあたりのコストがクラウドより安くなる場合があります(特に数千人規模)。
ただし、減価償却による資産管理が発生します。 - DaaS
初期投資を「資産」ではなく「費用」として計上できるため、キャッシュフローの透明性が高まります。
一方で、利用時間の管理を怠ると、月額コストが想定以上に膨らむリスクがあります。
セキュリティとカスタマイズ性のトレードオフ
- VDI
金融機関や官公庁など、インターネットから完全に遮断された環境での運用を必須とする場合、オンプレミスが唯一の選択肢となります。 - DaaS
「セキュリティは事業者に任せる」という考え方です。
主要なDaaSは各国の認証を取得しており、自社で構築するよりも高いレベルのセキュリティが維持されているケースが多く見られます。
導入スピードと拡張性の違い
- VDI
「来月から100人増員」といった急な変更には、ハードウェアの調達期間が壁となります。 - DaaS
数クリックでデスクトップを増やせるため、急なプロジェクトの立ち上げや、合併・買収(M&A)に伴うシステム統合にも迅速に対応可能です。
自社に最適なのはどっち?選定のポイント
比較表を踏まえ、実際にどちらの形態を選択すべきか。その判断基準となる3つの重要な視点を提示します。
① 機密情報の取り扱いレベルとネットワーク要件
自社のデータ取り扱いポリシーを確認してください。
- VDI が向いている場合
業界の規制や物理的なデータ所在地の制約が厳しく、データを一切外部(クラウド)に出せない、あるいは完全に閉域網のみで運用を完結させる必要がある場合。 - DaaS が向いている場合
インターネット越しにどこからでもアクセスできる利便性を優先し、クラウド事業者の高度なセキュリティ認証(SOC2やISMS等)を信頼して運用を効率化したい場合。
② 既存の社内システム(AD等)との親和性
多くの企業では、Active Directory(AD)によるユーザー管理を行っています。
- VDI が向いている場合
すでに強固なオンプレミスAD環境があり、社内の基幹システムやレガシーなアプリケーションとの低遅延な連携が最優先される場合。 - DaaS が向いている場合
Microsoft Entra ID(旧Azure AD)への移行を進めている、あるいはSaaS利用が中心の業務スタイルであり、クラウドネイティブな管理へシフトしたい場合。
③ 運用管理のリソースと技術習得
IT部門の体制も重要な決定要因です。
- VDI が向いている場合
社内にサーバーやネットワークの専門エンジニアがおり、ハードウェアの更新サイクルも含めた長期的なインフラ管理を自社でコントロールしたい場合。 - DaaS が向いている場合
IT部門の人数が限られており、物理的なサーバー管理(保守、故障対応)から解放され、より上流のDX推進やユーザーサポートに注力したい場合。
まとめ:自社のワークスタイルに合わせた選択を
仮想デスクトップの導入は、単なるPCの置き換えではありません。「どのような働き方を実現し、どのようなリスクから会社を守るのか」というビジョンを明確にすることが、成功への第一歩です。
- VDI は、高いカスタマイズ性と完全な制御を求める、大規模・高セキュリティ環境向けの「盤石な基盤」です。
- DaaS は、スピード・拡張性・運用負荷の軽減を求める、現代のビジネススピードに適した「柔軟な基盤」です。
どちらが正解ということはありません。
本記事で紹介した各方式の特徴を、自社のビジネスモデルやコスト構造に照らし合わせ、最適な「次世代のデスクトップ環境」を選択してください。
